住宅取得に関する相談を受けていると、たまにいるのが、「これから転職をしようと思っているんですが、その前に住宅ローンを組んで家を買ってしまおうかと考えています」という人。確かに、民間の銀行等が取り扱う住宅ローン商品は、「勤続年数3年以上(自営業の場合は営業年数5年以上)」などといった要件を満たさないと、借りられないのが通常です。転職してしまった後では、少なくともそれから3年以上経過しないと住宅ローンが借りられないことになるので、転職前に買ってしまおうと考えるらしいのです。
しかし、転職前に住宅取得を決めてしまって本当によいのでしょうか。
住宅ローンを組めるかどうかよりも、きちんと返せるかどうかのほうがよっぽど重要なことなので、住宅ローンが組めるうちに早く買ってしまおうと考えるのは、FPとしてはあまりオススメできません。
どうしても買いたい住宅が見つかってしまったという場合でも、転職後の収支状況を冷静に見積もったうえでの決断でない限り、やはりリスクが高いのではないかと思われます。
そもそも、転職後の収支状況を冷静に見積もれるのかどうかも個人的には疑問です。
一昔前に比べれば、転職は容易になっているのかもしれませんが、昨今の経済情勢からすると、転職によって年収が増える人よりも、転職によって年収が減る人のほうが多いのではないでしょうか。また、転職後の収支状況がどのように変化するのかは、実際に転職をしてみないと分からない点が多いのではないかと思われます。職場環境なども、外から見ているのと、実際に働き始めて中から見るのとでは、感じ方がかなり違うはずです。
結論としては、転職の可能性があるという時点で、住宅取得についてはしばらく様子を見たほうがよいと思います。仕事の状況や家計の状況が落ち着いてから、ある程度将来の見通しがたつようになってから、あらためて検討すればよいでしょう。それまでは、じっくりと頭金準備を進めてください。
貯蓄を増やせば増やすほど、住宅ローンの借入金額を抑えることができますし、転職後に想定外の事態が起きても、貯蓄がある分だけ金銭的に対応できる余力がつくことになります。転職前後の数年は、しっかりと貯蓄する時期だと割りきって考えるのもひとつでしょう。
なお、「フラット35」の場合は、勤続年数についての要件がないので、転職して間もない時期でも融資を受けることは可能です。ただし、転職後の収入をもとに融資可能額などを算出することになっているので、少なくとも数カ月程度の給与明細を持っていかないと、審査してもらえないでしょう。転職後何カ月以降ならいいのかは、住宅金融支援機構では定めていないので、各取扱金融機関によって異なるようです。どうしても早くローンを組んで買いたいという場合は、各金融機関等に問い合わせをしてみてください。
繰り返すようですが、転職してすぐに住宅ローンを組むのも、リスクが高いと思われます。
転職先の会社について、単なる報酬面だけでなく、人間関係なども含めた職場環境がわかってくるまでには、少なくとも1、2年はかかると思います。住宅ローンの返済期間が長期になるのであれば、なおさら10年先、20年先をある程度見通せる状況になってから決断すべきでしょう。「急いては事を仕損じる」といわれるように、慎重に検討したほうが無難です。
イラスト/杉崎アチャ