中長期的にインフレが続く経済状態でもない限り、住宅資金計画において、頭金をできる限り多く準備したほうがいいというのは、安全かつ有利な資金計画のためにも重要なことだといえます。
例えば、諸費用込みで4000万円の家を買うにしても、頭金が0円、500万円、1000万円の場合で比較してみると、トータルの負担額がかなり違ってきます。
下の表で4000万円の家を買うときの、頭金額による総返済額の違いを見てみましょう。頭金を多く準備することで、借入金額を少なくでき、毎月の返済負担を軽くするだけでなく、トータルの支払額を少なくできることが分かります。
頭金 | 借入金額 | 総返済額 | 頭金+総返済額 |
---|---|---|---|
0円 | 4000万円 | 約4970万円 | 約4970万円 |
500万円 | 3500万円 | 約4349万円 | 約4849万円 |
1000万円 | 3000万円 | 約3728万円 | 約4728万円 |
頭金はとにかく1円でも多く入れることが大切、となりますが、一方で、手元にある貯金を全額頭金に充ててしまっていいかというと、将来の不測の事態(突然の病気やケガによる入院や、倒産、解雇などによる退職等)が起きた際の出費のために、ある程度は手元に貯蓄を残しておくべきでしょう。
では、手元にいくら置いておけば安心なのでしょうか。
もちろん、手元の貯蓄は多ければ多いほど安心できると思いますが、手元に多く残せば、それだけ住宅資金のトータルの負担は重くなりますので、そのバランスを考え、安心できるギリギリのラインの貯蓄だけを残し、あとはできるだけ頭金に充当するようにするのが無難かと思われます。
さて、そのギリギリのラインですが、これも人によって安心できる水準が違いますし、現状のおかれた環境が異なりますので一概にはいえませんが、大雑把な目安としては、会社員世帯は手取り月収の3、4カ月分、自営業の世帯は手取り月収の6カ月分くらいが安心できる最低ラインと考えておくとよいでしょう。
この目安の根拠としては、会社員世帯の場合、倒産や解雇だと1カ月前後、自己都合退職だと4カ月前後から失業手当(雇用保険の基本手当)が受給できるためです。自己都合退職の場合の支給日数は、勤続10年未満で90日、10年以上20年未満で120日(倒産や解雇の場合は年齢によって異なりますが、自己都合退職の場合よりも長くなります)。
住宅ローンを組んだ後、突然、会社を辞めてしまったとしても、手取り月収の3、4カ月分の貯蓄があれば、失業手当が出始めるまでの期間の生活費をなんとか捻出できますので、失業手当を受け取っている期間を合わせると、退職後半年以内に再就職先を探すことをおすすめします。
一方、自営業者の場合は、通常、失業手当がありませんので、会社員の場合よりも少し長めに半年程度の手取り月収に相当する貯蓄は手元に置いておきたいところです。
なお、これらはあくまでも目安として参考にする程度で十分ですので、あとは個々の家庭の状況に合わせて検討してください。
近い将来、子どもが進学を控えているとか、何らかの出費の予定があるというような場合は、これらの目安とは別に貯蓄を残しておく必要があるでしょうし、逆に、夫婦共働き世帯などでは、片方が退職したからといってすぐには家計が破綻するような状態にはならないはずですので、手元に置く貯蓄は少なめでもいいかもしれません。
やはり重要なのは、将来のライフプランをじっくりと考えたうえで、安全かつ有利な資金計画を練っていくことです。不測の事態に備えた貯蓄とのバランスを考慮し、頭金を多く入れるようにしましょう。
イラスト/杉崎アチャ