今回は、共働きの夫婦が共有名義で住宅を購入し、その後、離婚してしまった場合に関連するお話です。比較的多くのケースで、離婚による財産分与のときに、住宅はどちらか一方が住み続けることを決めると思います。その際、出ていくほうの住宅の持分と住宅ローンの残高の両方を引き継ぐかたちで名義変更などの手続きをするのが通常でしょう。
このとき、引き継ぐことになる元妻(または、元夫)のローンに対する住宅ローン控除は、まったく受けられないというのが10年ほど前までの取り扱いでした。離婚前よりも多くのローンの支払いが発生するのに、住宅ローン控除は受けられなかったのです。
なぜかというと、それまでの取り扱いは、離婚をして共有持分を追加取得したとしても、その共有持分の取得が、2つ目の住宅を取得するのと同じだと判断されてきたためで、「住宅ローン控除は主として居住する1つの住宅にしか適用できない」という規定によって、適用除外とされてきたわけです。つまり、離婚前の自分のローンに対する住宅ローン控除しか認められない状態でした。
離婚したことによって持分を追加取得したといっても、もともと共有名義だった1つの住宅です。持分の取得が、「2つ目の住宅を取得するのと同じだ」といわれても、納得する人は少ないでしょう。だって、現実に住宅は1つしか存在しないわけですから。
そこで、「これは、おかしい」ということで審査請求をした人がいたんですね。そして、2009年2月に国税不服審判所の裁決が下りました。
裁決の内容は、「財産分与などによる共有持分の追加取得は、2つ目の住宅を取得することにはあたらない」というものでした。当然といえば、当然の内容です。
この裁決を受けて、国税庁では、2009年2月より、当初から保有していた共有持分と、追加取得した共有持分のいずれについても、住宅ローン控除が適用できるように取り扱いを改めることにしたのです。
したがって現在では、元妻(元夫)の持分とローン残高の両方を取得したのであれば、住宅ローン控除は別途受けられるようになっています。
住宅ローン控除が受けられる期間は、現行制度であれば、持分を追加取得してから10年間の控除となります。仮に、元妻(元夫)が受けていた住宅ローン控除の残りの期間が短くなっていたとしても、それは関係ありません。あくまでも、持分を追加取得した年を出発点として、新しいローン控除が始まるようなイメージです。
ただし、当然のことながら、追加取得した持分や引き継いだローンについて、住宅ローン控除の適用要件をすべて満たしている必要があります。例えば、元妻(元夫)のローンを引き継ぐ場合、その引き継いだ時点での残りの返済期間が10年以上あるといったような要件などです。
厚生労働省の人口動態統計(2017年確定数)を見ると、2017年の婚姻件数が約61万件で、離婚件数は約21万件となっています。婚姻件数は1970年代終わりごろから2010年ごろまでは70万件台で推移していましたが、ここにきて減少傾向にあります。離婚件数も、2002年の約29万件をピークに少しずつ減少しているようです。
あらかじめ将来の離婚に備えておくというのは、あまりいいお話ではありませんが、さまざまな事態に備えておく発想はそれなりに重要かと思われます。お金に関する話は、知っておいて損をすることはないはずです。
イラスト/杉崎アチャ